文化遺産国際協力コンソーシアムは、2024(令和6)年9月28日(土)に第34回研究会「学校教育と文化遺産」を、東京文化財研究所セミナー室を会場に開催しました。
※研究会の開催概要・プログラムについては、こちらをご覧ください。
本研究会では、初等教育・中等教育を中心に、学校教育が文化遺産国際協力に果たす役割について、その方法論や課題等を国内外の事例報告を通じて議論し、文化遺産国際協力と学校教育の関係にあらためて目を向け、その意義を共有する場といたしました。
研究会は、青木繁夫副会長による開会挨拶および友田正彦事務局長の趣旨説明で始まり、4名の登壇者より国内・海外での取り組みをそれぞれ2件報告いただきました。
前半では、国内で行われた授業の様子を紹介いただきました。
澤之向達也氏(岐阜市立加納小学校 教諭/前 白川村立白川郷学園 教諭)からは、「白川村立白川郷学園:第4学年社会科学習の実践 『残したいもの 伝えたいもの~白川村荻町集落~』」と題し、世界文化遺産のある集落で地域の伝統や文化を守るための課題と解決策を考える小学4年生を対象とした授業が報告されました。人口減少および高齢化が進む中で合掌集落を守り続けるために自分たちにできることは何かという問いに、子どもたちが活発に意見交換する姿や、地域の人々との連携や地域社会に誇りと愛情を持つことを目指した授業の様子が伝えられました。
増渕麻里耶氏(京都芸術大学 芸術学部 教授)からは、「後期中等教育における文化遺産教育の意義と課題―京都芸術大学附属高等学校プロフェッショナル科目『歴史遺産』の選択と進路―」と題し、高大連携の一環として行われた選択制の集中授業が紹介されました。高校生が自らの進路選択をする過程で文化遺産について考え、文化遺産の保存修復の重要性を理解するための、唐招提寺やポンペイ遺跡の保存修復を例にワークショップ形式の能動的な学びの機会となるカリキュラムについて報告されました。学校教育の中で文化遺産について教えることは、生徒は自らの地域や世界の文化遺産を理解・尊重する心を育み、持続可能な社会の形成や国際理解の促進にも直結すると強調されました。
後半では、日本人研究者が海外で文化遺産保護に貢献する取り組みが2例紹介されました。
小林貴徳氏(専修大学 国際コミュニケーション学部 准教授)からは、「ポピュラーカルチャーで学ぶ郷土史と文化遺産の保護―メキシコ農村部における学習マンガの導入とその効果―」と題して、メキシコ・トラランカレカ村で村内に眠る古代都市遺跡に対する地域住民の関心を高めるために学習マンガを活用した教育プロジェクトが紹介されました。同プロジェクトでは、郷土の歴史や文化遺産に関する「学校知」と「日常知」がかい離している問題に着目し、地域住民への聞き取り調査やアンケートを通じた公共人類学的アプローチから導かれた結果をいかしたマンガ製作がされ、地元住民への贈呈、公開へとつなげたプロセスが報告されました。とくに海外で実施するプロジェクトは継続性が課題であることが強調されました。
丸井雅子氏(上智大学 総合グローバル学部 教授)からは、「アンコール遺跡における文化遺産シェアにむけての普及教育活動」と題し、上智大学が1999年から四半世紀にわたり取り組んでいるカンボジアのアンコール遺跡群での文化遺産普及・教育活動がビデオ講演形式で紹介されました。現場では、遺跡発掘や修復現場の現地説明会に加え、遺跡をめぐる伝承絵本の作成、体験や学びを分かち合う世代間対話の会など様々な「文化遺産シェア」を意識した試みが展開され、考古学分野の取り組みは学生が実践的な経験を積む機会にも繋がっていることが報告されました。また、文化遺産教育にマニュアルはなく、個別の遺跡や地域の事情をより丁寧に見ていくことが重要で、学校で学ぶ世代がシェアしたくなるようなものにする体制づくりの必要性が強調されました。
パネルディスカッションでは、対面参加の3名の講演者のほか、五月女賢司氏(大阪国際大学 国際教養学部 准教授)をコメンテーターに迎え、關雄二副会長をモデレーターに今後の文化遺産教育について、活発な議論が展開されました。五月女氏からは、文化遺産と学校教育の連携の重要性があらためて指摘され、地域の現状や課題を踏まえた教育が不可欠であること、教育の効果は時間がかかるものの、現地の当事者が主体的に長期的な視点をもって取り組むことが重要であると指摘されました。また、批判的遺産研究の視点から遺産が文化的社会的プロセスであることや、地域住民との対話の重要性についても強調されました。關副会長からは、学校教育における文化遺産というテーマについては、今後も文化遺産国際協力コンソーシアムにおいて、現場の声に耳を傾けながら継続的に議論していくことが提言されました。
最後に、關副会長より閉会挨拶があり、全てのプログラムを終了しました。
当日は、教育関係者にも多数ご参加いただき、約70名の方に会場に足をお運びいただきました。本研究会の開催にあたりご協力いただいた関係者の皆様、参加者の皆様に、あらためて感謝申し上げます。
※研究会を収録した動画は、
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写真説明:
左 :(上から)青木副会長、澤之向氏、小林氏、五月女氏
中央:パネルディスカッションの様子
右 :(上から)友田事務局長、増渕氏、丸井氏、關副会長