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コンソーシアムからのお知らせ

第32回研究会「中央ヨーロッパにおける文化遺産国際協力のこれまでとこれから」を開催しました

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 文化遺産国際協力コンソーシアムは、2023(令和5)年1月28日(土)に第32回研究会「中央ヨーロッパにおける文化遺産国際協力のこれまでとこれから」をウェビナーにて開催しました。
※研究会の開催概要・プログラムについては、こちらをご覧ください。

 昨春から続くロシアの侵攻によって大きな被害を受けているウクライナの文化遺産に対する国際協力を考える上では、同国が位置する地域の地理的・文化的な特徴を理解し、その歴史背景にも十分に配慮する必要があります。一方で、ウクライナを含む中東欧や南東欧地域については、これまで文化遺産分野における日本の国際協力実績が十分に共有されているとは言い難いのが実情です。
 本研究会は、中央ヨーロッパという概念を用いてこの地域の特徴を概観し、そこでの日本によるこれまでの文化遺産国際協力活動を振り返るとともに、今後の協力のあり方について考えることを目的として開催しました。

 当日は、岡田保良副会長による開会挨拶と趣旨説明ののち、基調講演として篠原琢氏(東京外国語大学総合国際学研究院 教授)から「中央ヨーロッパという歴史的世界」と題した発表がありました。まず、従来東欧と呼ばれてきた地域が歴史的には西ヨーロッパの文化と東ローマ帝国以来の伝統を引き継ぐ地域の文化とが混淆する地域であり、そこには様々な異なる宗教や文化の影響を併せ持つ文化遺産が数多くあることが指摘されました。そして、1980年代から登場した「中央ヨーロッパ」という概念が単に地域を指す呼称にとどまらず、ホロコーストや強制的な住民移住といった、2度の大戦による喪失を文化的に回復しようとする理念として機能してきたことや、その中で文化遺産が象徴的な役割を果たしていることが紹介され、ポーランド・クラクフの国際文化センターがそのような共有遺産の修復支援や社会啓発、研究促進、関係者の相互交流を行っていることも報告されました。

 次に、文化遺産国際協力コンソーシアム事務局前田康記アソシエイトフェローより「中央ヨーロッパに対する国際支援と日本の国際協力」と題して発表がありました。同地域における日本の政府援助の変遷のなかでは、技術協力や人材交流などの文化遺産に関する協力がブルガリアやルーマニア、セルビアを中心として実施されてきたのち、EU拡大に伴って協力の枠組や対象が変化していることが指摘されました。また、同地域に対する国際的な支援に関しては、EUが国連組織とも連携しながら支援を行っていることや、特にウクライナ支援におけるEUやポーランドをはじめとする近隣国からの支援についても報告されました。

 続いて、同地域の文化遺産国際協力の具体的事例として、嶋田紗千氏(実践女子大学 非常勤講師)「セルビアの文化遺産保護と国際協力」と題して、セルビアにおける文化遺産保護の歴史や、自身がコーディネートした壁画修復プロジェクトについて発表されました。現地の研究者や修復家との人脈を頼りに、保存・修復を行う修道院の選定、作業工程の視察や記録、メディア対応などの過程を通じて、聖職者を含む多くの現地関係者と協力を行ったことが紹介されました。同時に、所有権の扱いなどセルビアの文化遺産におけるセンシティブな問題に留意しつつ、現地の研究者や修復家との信頼関係を築くことの重要性が強調されました。

 さらに、三宅理一氏東京理科大学 客員教授)「ルーマニアの歴史文化遺産とその保護をめぐって」と題して、ルーマニアにおける文化遺産保護の歴史や、自身が携わられた事業について発表されました。特にユネスコ日本信託基金で実施されたプロボタ修道院保存・修復事業は同国における修道院の全面修復の嚆矢となり、学問上の貢献に加えて、そこで培われた人的ネットワークが多くの後続事業へと発展していったことが説明されました。他方、ルーマニアのEU加盟後は日本によるフォローアップが継続的に行われておらず、アカデミックな関係に留まらないかたちで両国の協力関係をいかに築いていけるかが課題として提示されました。

 これらの発表を受けて、コンソーシアムの欧州分科会長である金原保夫氏(東海大学 名誉教授)のモデレートのもと、発表者を交えたパネルディスカッションが行われました。はじめに発表内容を振り返り、中央ヨーロッパ地域の特質やこれまでの文化遺産国際協力の強みや課題を整理したのち、ウクライナを含む同地域における今後の文化遺産国際協力のあり方についても意見が交わされました。オブザーバーの舘崎麻衣子氏(文化財保存計画協会)から、現地の歴史や文化に配慮した支援と相互理解に立脚した国際協力の重要性が指摘されたほか、上北恭史氏(筑波大学芸術系 教授)からは、ウクライナ支援が持続的な文化遺産保護に結びつくように現地人材の育成や組織体制づくりを助ける必要性が強調されました。これからの協力のあり方としては、地域のハブとなる組織とも連携しながら、情報共有や人材交流を含む国際協力の望ましい形や日本の強みを発揮できる分野を継続的に模索していく必要性が確認されました。
 最後に、友田正彦事務局長による閉会挨拶をもって、研究会は終了しました。

 当日は、100名近くの方にご参加いただきました。本研究会の開催にあたりご協力いただいた関係者の皆様、参加者の皆様に、あらためて感謝申し上げます。

 

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