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第33回研究会「文化遺産保護の国際動向」を開催しました

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 文化遺産国際協力コンソーシアムは、2023(令和5)年11月12日(日)に第33回研究会「文化遺産保護の国際動向」を、東京文化財研究所セミナー室を会場に開催しました。
※研究会の開催概要・プログラムについては、こちらをご覧ください。

 本研究会は2部構成とし、第1部では「国際社会と国際機関の動向」をテーマに、直近の世界遺産委員会や無形文化遺産保護条約をめぐる動向に焦点を当てるとともに文化遺産保護を専門とする国際機関であるICCROMの最近の活動についてご報告いただきました。第2部では「日本の協力事例から」と題して、海外の文化遺産保護に対する日本の国際協力と人材育成のグッドプラクティスを紹介する機会としました。

 研究会は、岡田保良副会長による開会挨拶と趣旨説明で始まり、第1部では3名の各分野の第一人者に登壇いただきました。1人目の鈴木地平氏(文化庁文化資源活用課文化遺産国際協力室・文化財調査官)からは「世界遺産条約をめぐる昨今の状況」と題して、2023年の世界遺産委員会での記憶の場の登録や審査プロセスの透明化の議論などのさまざまな動きが報告されました。新しいカテゴリー「記憶の場」として登録された3つのサイトの具体的な紹介のほか、審査プロセスの透明化に向けた取り組みは推薦国と諮問機関の意見の行き違いを解消し、信頼性の高い審査プロセスの実現が期待されていることなどが説明されました。

 2人目の岩崎まさみ氏(北海学園大学開発研究所・特別研究員)からは「無形文化遺産保護条約の運用をめぐる現状」と題し、世界各国の多様な無形文化遺産を保護・継承することを目的として2003年に採択された無形文化遺産保護条約の成立背景や2009年の運用開始後の様々な課題が報告されました。その中で現在、「代表リスト」と「危機リスト」、「グッドプラクティス」登録制度の見直しを含む条約運用の見直し作業が進められていることが紹介され、リスト間の移行手続きの整備や申請書全体の簡略化、設問内容の改善により今後の条約運用が潤滑に進められるようになることへの期待が示されました。

 3人目の井川博文氏(文化庁文化資源活用課整備活用部門・文化財調査官 / 前ICCROM・プロジェクトマネージャー)からは「ICCROMの最近の取り組みとプロジェクト」と題して、ICCROMの概要と日本との関係、近年ICCROMが注力しているプロジェクトやトレーニングプログラムの具体例が報告されました。ICCROMの活動は国際社会の動向とリンクして目的や対象が多岐にわたるようになっていますが、トレーニングプログラムについては元来、文化遺産の保存修復に関する専門知識とスキルを向上させることを重視しており、建築遺産保存(CBH)コースを例に挙げて、近年とくにその進化が目覚ましい3D記録の実習や重要性が高まっている遺産マネージメントの演習の様子が紹介されました。

 第2部では、森本晋氏(公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター文化遺産保護協力事務所・所長)「文化遺産保護に関するACCUの協力事業 国際会議〈アジア太平洋地域における文化財防災の現状と課題〉を中心に」と題して、ACCUが実施する事業の全体像を文化遺産保護に関する研修(集団研修、個別テーマ研修、国際会議、文化遺産ワークショップ)と情報発信(インターナショナルコレスポンデントの発行やeラーニング)の2つに整理して説明されました。そのうち2021年から3か年の連続テーマとして開催している国際会議「アジア太平洋地域における文化財防災」の成果として、アジア太平洋地域における文化遺産防災の意識向上や課題解決に向けた機運醸成に貢献していることが紹介されました。

 続いて「古都ホイアンにおける日本の文化遺産国際協力-日本橋の保存修復を中心に-」という共通テーマで、友田博通氏(昭和女子大学国際文化研究所・特任教授)稲垣智也氏(文化庁文化資源活用課修理企画部門・文化財調査官)の連名による発表をいただきました。前半の友田氏からは、昭和女子大学国際文化研究所の設立経緯や30年にわたるベトナム・ホイアン旧市街の保存活動、その成果としての世界遺産登録や地域経済の発展への貢献といったホイアンでの文化遺産国際協力の全体像が紹介されました。その中で文化遺産保護は、単に建物を保存修復するだけでなくそれが地域の活性化につながっていることが必要であり、そのためには、住民の理解と協力を不可欠のものとして、長い時間をかけて一緒に歩むことが重要であることが強調されました。後半の稲垣氏からは、昨年から行われているホイアン旧市街の象徴的な建築遺産である「日本橋」の保存修理について、JICAベトナム事務所と在ベトナム日本大使館、文化庁の連携により、ベトナム全土の修理技術者のワークショップや日越関係者の意見交換といった双方向の協力が行われることで、ベトナム側の人材育成に貢献するとともに日本側の人材育成にも役立つ結果となっていることが報告されました。

 第1部と第2部の発表者全員によるパネルディスカッションでは、關雄二副会長のモデレートのもと、有形と無形に共通する文化遺産保護の課題やコロナ禍以降に加速したデジタル化への対応、コミュニティーとの関わり方や日本の強みを活かした国際貢献のあり方など多岐にわたる議論が展開され、日本が行ってきた文化遺産国際協力を振り返りつつ今後目指すべき方向性について様々な意見が交わされました。
 最後に、友田正彦事務局長による閉会挨拶をもって研究会は終了しました。

 当日は、不安定な天候にもかかわらず60名以上に会場に足をお運びいただきました。本研究会の開催にあたりご協力いただいた関係者の皆様、参加者の皆様に、あらためて感謝申し上げます。

※研究会を収録した動画は、
コンソーシアムYouTubeチャンネルにて公開する予定です。どうぞお楽しみに。チャンネル登録もぜひお願いします。

写真説明(左から右へ):

1:岡田保良副会長による開会挨拶;2:鈴木地平氏による講演;3:岩崎まさみ氏による講演;4:井川博文氏による講演
5:森本晋氏による講演;6:友田博通氏による講演;7:稲垣智也氏による講演;8:モデレーターの關雄二副会長
9:友田正彦事務局長による閉会挨拶;10:パネルディスカッションの様子

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