オランダ国旗 Netherlands

1. 政府の全体像と文化遺産国際協力に関する行政区分

総務省、社会雇用省、外務省、内務・王国政務省、安全保障・法務省、教育・文化・科学省、財務省、国防省、社会基盤・環境省、経済省、保険・福祉・スポーツ省、貿易・開発省、移民省、環境省、農業省といった省がおかれている。

文化遺産国際協力に関しては、外務省の国際文化政策ユニット(International Cultural Policy Unit、ICE)、教育・文化・科学省の文化遺産庁、国立文書館、Dutch Cultureが中心的機関となっている。


2.1 国内文化財保護の法体系

「遺産法(Heritage Act、2016)」

  • これまで個別に存在していた文化遺産関連法を統合した法律であり、美術館・博物館およびその所蔵品、記念物、考古学遺跡がカバーされている。2016年制定。
  • この遺産法に統合された法律は、以下の通り。
    Regulations on Material Management of Museum Objects(博物館所蔵品の物質的管理に関する規則)、National Museum Services (Privatization) Act(国立博物館民有化法)、Monuments and Historic Buildings Act1988(記念物歴史的建造物法)、Heritage Preservation Act(遺産保存法)、1970UNESCO Convention on Illicit Import, Export and Transfer of Ownership of Cultural Property (Implementation) Act(1970年ユネスコ条約履行法)、Cultural Property Originating from Ocuppied Territory (Return) Act(占領地に由来する文化財返還法)。

※このほか、Environment and Planning Actを2019年成立に向けて準備中。

2.2 文化遺産国際協力に関する固有の法律の有無およびその特徴

文化遺産保護に関する国際協力に関しては、外務省と教育・文化・科学省が共同で中心的な役割を担っているが、この国際協力を専らの目的とする国内法は整備されていない。

2.3 国際協力全般の中での文化遺産国際協力の位置づけ

明文化はされていない。

2.4 国家予算

歳入 292.572billionユーロ(2925億7200万ユーロ)
歳出 305.306billionユーロ(3053億600万ユーロ)

(2015年度実績、IMFウェブサイトで確認)

2.5 文化財保護の予算

文化遺産に関わる中心的な政府機関である文化遺産庁の予算は、組織維持に3500万ユーロ以上、文化遺産保存管理に8000万ユーロ以上。

2.6 文化遺産国際協力予算

Shared Culturel Heritageプログラム、文化遺産緊急援助プログラム、その他にも財団や文化遺産関連機関が文化遺産の国際協力に関わりうる予算を個別でもっており、「文化遺産国際協力予算」とみなすことのできるデータは見当たらない。

2.7 予算配分(執行)方法

プログラムごとに異なる(詳細は下記参照)

2.8 政府関係組織

組織①
●Dutch Culture (Dutch Center for International Cultural Cooperation)

  • 設立:2013年1月1日
  • 本部:アムステルダム
  • 職員:33名(常勤・非常勤の別は不明)
  • 役割:国際文化協力に関する戦略的助言機関(strategic advice agency)として、欧州グラント、アーティスト・イン・レジデンスに関する情報発信、海外の文化関連専門家によるオランダの文化機関訪問プログラム、特定国との文化プログラムに関するコラボレーション等を推進している。中でも、文化遺産に関しては、オランダの遺産関連団体の国際活動の支援を行っている。
  • 活動方法:文化セクター、オランダ政府、国内外の外交チャンネルを通じて活動している。
  • 運営:教育・文化・科学省、外務省および欧州委員会ECから委託をうけている。教育・文化・科学省および外務省からは4年間(2013年~2016年)の補助金を受けており、欧州での活動に関しては欧州委員会から資金拠出をうけている。
  • その支援するプロジェクトの情報発信等の場として、Cultural Heritage Connectionsというウェブサイトも運営している。(http://www.culturalheritageconnections.org/

組織②
●文化遺産庁(Cultural Heritage Agency)

  • 教育・文化・科学省の一部局であり、建築遺産、歴史的景観、考古学遺跡、博物館・美術館を所管する。本部はアーメルフォート。2009年に、それまで別組織であった記念建造物部門(the expertise centre for monuments)、考古学部門(the expertise centre for archeology)、文化的景観部門(the expertise centre for cultural landscapes)を統合する形で設立された。
  • 変容を続ける社会における持続的な遺産保存のための良好な環境づくりをその役割としているほか、国立美術館・博物館の所蔵品、考古学遺物の管理も担っている。
  • SCHのプログラムにおいては、複数国を対象としたトレーニングプログラムおよび地元への助言等を通じてその知見を提供することで、プログラムの目標達成に貢献している。特にSCHパートナー諸国へは、歴史的中心市街地、美術館・博物館コレクション、海洋考古学の3分野において取組みを進めている。(以上2013−2016Fact Sheet)
  • 年間予算は、組織維持に3500万ユーロ以上、文化遺産保存管理に8000万ユーロ以上。およそ315名の職員に加え、年間100名以上のインターンが勤務している。

組織③
●在外公館

  • SCHのプログラムでは、外務省予算の配分を受けるパートナー諸国の在外オランダ大使館が重要な役割を果たしている
  • 各大使館の役割は以下の通り。
    • 地元からのイニシアチブを支援する
    • 関係機関どうしを結びつける
    • オランダの団体が地元の状況をよりよく理解できるよう支援する
    • 地元組織およびオランダの団体が経済的、文化的チャンスをつかめるよう支援する

組織④
●オランダユネスコ国内委員会UNESCO National Committee Netherlands

  • 1947年設立
  • 委員会メンバー:ユネスコの活動領域の専門家で構成され、定員11名。
  • タスク:ユネスコ活動に関するオランダ政府への助言、ユネスコの組織目標・プログラム・活動の推進、およびユネスコ活動に関わる国内の専門家や組織と世界のユネスココミュニティとをつなぐこと。

2.9 大学・研究機関等

●国立文書館

1600年から1975年の植民時代・大航海時代の歴史と関係する国家的重要性をもつ記録資料を350万点以上所有している。これらのコレクションには、南北アメリカ、アフリカ、アジアの国々におけるオランダのプレゼンスが反映されている。同文書館におけるSCHのプログラムの目標は、以下の通り。

  • 国際的、学際的かつ歴史的研究の促進
  • 関係諸国の遺産でもあるこうしたコレクションのデジタル化
  • コレクションへのアクセス改善
  • 保存、修復、デジタルアーカイブに関する国内外の専門家の能力強化

(以上2013−2016Fact Sheet)

●教育機関

アムステルダムに所在するReinwardt Academy, Amsterdam School of the Arts、およびライデン大学内に設けられているCentre for Global Heritage and Development (ライデン大学、デルフト工科大学、エラスムス・ロッテルダム大学の合同事業)は、2015年にアムステルダムで開催されたICCROMの文化遺産緊急援助研修に協力していた。

2.10 NGO等

●Prince Claus Fund(プリンスクラウスファンド)

  • 概要
    1996年、クラウス王子(2002年没)の70歳の誕生日を記念して、王子が開発援助に貢献してきたこと、および人間開発における文化の役割を重要視してきたことに敬意を表して設立されたNGOである。主に、アフリカ、アジア、ラテンアメリカ、カリブ海地域の個人や組織と協働し、演劇、芸術、映画、スポーツ、文学、音楽などの分野に関わるプロジェクトを支援することにより、人々の文化に対する識見を深め、また文化と発展の間における相関関係を促進することをその活動の目標としている。
    ①文化的活動の助成(Grants and collaboration)、②年次表彰(Prince Claus Awards)、③文化遺産緊急援助(Cultural Emergency Response)が活動の3つの柱になっており、具体的にはそれぞれ、①紛争、貧困、抑圧、排斥、タブーにより文化的表現の自由が制限されている地域のアーティスト、評論家、文化団体等の支援、②文化と発展の分野における優れた業績に対する個人・団体の表彰(毎年)、③人的災害と自然災害による文化遺産の被害に対する緊急支援を行っている。また、そのほか、さまざまなアウトリーチプログラムも実施されている。
  • 資金
    外務省とオランダ宝くじ(Dutch Postcode Lottery)による拠出および個別の寄付によっている。2015年度当初予算5,520,000ユーロ(内訳は、外務省:3,250,000ユーロ(2012〜2016の5カ年で17,500,000ユーロ)、宝くじ:500,000ユーロ(例年同額)、特定プログラムへの拠出530,000ユーロ、個別の寄付等:当初見込み1,210,000ユーロ(実績1,133,862ユーロ)、利子30,000ユーロ。)
    支出実績は、助成2,435,796ユーロ、文化遺産緊急援助1,310,589ユーロ、表彰1,131,373ユーロのほか、モニタリング経費、事務経費等を含め、5,446,960ユーロ。
  • 職員はおよそ20名。そのほか、インターンやボランティアが協力している。また各種プログラムには、諮問組織等が設置されている。

●Blue Shield Netherlands

  • 2000年6月28日、オランダICOMOS、オランダICOM、オランダアーキビスト連盟(The Royal Association of Archivists in The Netherlands)、王立図書館(Royal Library)からの代表者の署名を得て、設立された。
  • 自然災害、軍事行為、その他の人為的行為による脅威に対し、オランダの文化遺産を保護すること、およびそうした脅威の際に、国内的支援、国際的支援を準備・計画することを目的として、意識啓蒙、知識・経験の普及、災害時の助言活動、ハーグ条約の周知、情報の収集・共有に取り組むことを活動ミッションとし、被災地域と支援者・援助機関とをつなぐコーディネーターとしての役割を自任している。PCFが資金面で被災文化遺産の復旧に援助するのに対し、オランダブルーシールド国内委員会は、その専門性を提供することで援助を行っている。
  • NGOではあるが、国防省、外務省、司法省の各関連省庁もその諮問委員会(Advisory Board)のメンバーとして活動に関与しているほか、PCF、オランダユネスコ国内委員会など、この問題に関わりうるあらゆる国内組織と協力関係をもっている。その他にも、他国のブルーシールド委員会、ユネスコ本部、その他のさまざまなNGOとも関係をもっている。

●ICOMOS Netherlands、ICOM Netherlands

  • ICOMOSとICOMの国内組織がそれぞれ活動しており、ブルーシールド組織の構成機関ともなっている。
  • 会員構成
オランダICOMOS およそ150名の専門家、およそ15の団体
オランダICOM およそ2500名の専門家、44の団体

2.11 各組織の連携について

  • 組織間連携を専らの目的とする確立された組織はないが、オランダブルーシールドはその性質上、政府組織とNGO、および民と軍とをつなぐ役割を自ずと果たしている。

2.12 他国・国際機関(UNESCO, ICCROM等)との連携

●ユネスコ世界遺産条約
Netherlands Funds-in Trust (NFIT):

概要 2001年に、条約履行強化を目的として、教育文化科学省が設置したもの。2017年1月より始まった第5サイクル(〜2020)は、年間375000ユーロ、合計150万ユーロの予算規模。
方針 プロジェクトやプログラムの選定は、世界遺産条約の戦略目標"5C"、世界遺産委員会決議、条約締約国からの要請のほか、定期報告、地域ごとの行動計画、地域・テーマのバランス、ニーズ、危機遺産リスト、およびShared Heritageや歴史都市再生等のオランダの政策に基づいて行われている。
Shared Cultural Heritageのカテゴリーに入る文化遺産は特に重視されるものの、援助対象国やプロジェクト実施に関わるコンサルタントの選定において、国や国籍の制限は設けられていない。

●ユネスコ無形文化遺産条約

  • 条約履行のために利用できる予算として50万ユーロが計上されており、その一部は任意拠出の基金として条約において設置されている無形文化遺産基金に配分されている。

●武力紛争の際の文化財の保護に関する条約

  • 同条約第二議定書において設置されている任意拠出の基金に、毎年25000ユーロを拠出している。

※その他の条約については今後、要確認。

●ICCROM

  • オランダユネスコ国内委員会、ICCROM、スミソニアン協会が2015年、ICCROMによる文化遺産緊急援助の研修コース「First Aid to Cultural Heritage in Times of Crisisをアムステルダムにおいて、オランダ教育・文化・科学省、教育機関、NGOを含むオランダの11の文化関連機関の協力のもと、実施している。

3. 文化遺産国際協力における近年の動向

●Shared Cultural Heritageプログラム

<概要>

  • オランダでは、国際的な遺産政策においては、Shared Cultural Heritage(SCH)と欧州協力に優先順序をおいている。SCHとは、オランダが、大航海時代と植民政策時代を通じて国外にのこしてきた有形・無形の痕跡を意味しているが、これらの文化遺産を保存管理し、アクセス可能なものとするためには、国際協力が必要であると認識されており、2000年より、オランダの国際文化政策における優先事項となっている。
  • 2000年に国会承認をうけた「共有の文化遺産政策(蘭;Gemeenschappelijk Cultureel Erfgoedbeleid、英:Common Cultural Heritage Policy)」は、外務省と教育・文化・科学省が中心となり、国内外の研究機関、博物館・美術館等の機関、NGO、または相手国のパートナーなどと協働して、文化遺産保護に関するプロジェクトを推進するものである。対象国は旧植民地など、オランダと歴史的に関係の深い国々に限られており、ブラジル、ガーナ、インド、インドネシア、ロシア、南アフリカ、スリナム、スリランカの8カ国が該当国となっていた(2009年)。
  • 「共有の文化遺産政策」が第一の目的とするのは、オランダとパートナー国がともに政治的かつ専門的に参加し、文化遺産の持続可能な維持・管理において協働することである。さらに、この文化遺産分野における協力の成果としては、「対象国の文化的アイデンティティの強化」「象徴としての文化遺産の意義の強化、および副次的効果の派生」「雇用、観光、教育など、他分野への影響」「将来の文化財保存の確保」の4点が達成目標として掲げられていた。
  • SCHのプログラムは、当初は、オランダの国際協力統合予算(HGIS:Homogeneous Budget for International Cooperation(オランダのすべての政府機関の対外関係予算、すべての外交活動を単一の予算的枠組みの中に統合・再編することによって調整が容易になるとの考えに基づき1997年に導入))において行われていたが、2007年にHGISからの予算配分が停止され、教育・文化・科学省と外務省において、”Common Cultural Heritage Policy Framework 2009-2012”が作成された。これは、2011年の中間レビューを経て、Shared Cultural Heritage Policy Framework2013-2016へと引き継がれている。
    2017年からは、International Cultural Policy Framework for 2017-2020において、SCHが継続して一つの重要項目として実施されている。なお、これ2017−2020以前の国際文化政策については、総合的な文化政策である 'Meer dan kwaliteit: een nieuwe visie op cultuurbeleid''(2012)の中に示されていた。

<Shared Cultural Heritage Policy Framework2013-2016>

  • 目的は以下3点;①国際関係・国際協力の推進(国際協力は文化間対話を促進し、文化的アイデンティティの理解を深め、人々の間のsolidarityを育む)、②文化遺産の持続的保護(SCHに関する知識の増強、知識共有の推進、意識啓発、保存に関する地元の基盤強化、市民による遺産へのアクセス構築を通して実現する)、③機会の創出(SCHの領域における国際協力はオランダとパートナー諸国との間の関係性を強化し、多様な機会を創出する)
  • パートナーシップ対象国(GCE国):オーストラリア、ブラジル、インド、インドネシア、日本、ロシア、南アフリカ、スリナム、スリランカ、米国(ただし、これらの国々におけるプロジェクトと直接的関係をもつものであれば、他の国との連携も除外されない。
  • 政策実施:Dutch Culture、国立文書館、文化遺産庁が担当
  • 予算:外務省と教育・文化・科学省が年間100万ユーロずつ拠出。
外務省 予算のほとんどを、在GCE国オランダ大使館に分配している。各国の地元団体は、オランダの団体との共同プロジェクトであるか否かにかかわらず、SCHに関するプロジェクト実施のための補助金を大使館に申請する仕組みとなっている。大使館がもつ経験と地域固有の状況についての知識を鑑み、補助金分配においてフレキシビリティが与えられている。
教育・文化・科学省 予算のほとんどが、文化遺産に関する政府機関である国立公文書館National Archivesと文化遺産庁Cultural Heritage Agencyに分配されている。予算は、各機関の計画に基づき執行され、知識の移転、人材育成、意識啓発、各国におけるプロジェクトの促進・支援等に使用されている。

※ただし、いずれの省予算のプロジェクトも、その手法、効果、予算・期間等についての一定の要件を満たすことが必要。
※両組織とも、100万ユーロのうち大使館または公文書館・文化遺産庁に配分する以外の予算は、Dutch Cultureに振り分けており、これが、Dutch Cultureにおけるマッチング・ファンド・プログラムの資金源となっている。マッチングファンドでは、大使館や政府機関が支援する活動を補完する特別なプロジェクトに対して用いられている。

<SCHマッチングファンド>

  • さまざまな国におけるSCHに関する活動に関わるオランダの組織のプロジェクトを支援している
  • SCHの認知度を高めうるプロジェクトを歓迎している。
  • SCHのプロジェクトに携わるオランダの団体は、“Shared Cultural Heritage Travel compensation scheme”に申請することができる。これは予め定められた10の国のうちの一以上を訪問するオランダの団体に対する補助金である(指定10カ国:オーストラリア、ブラジル、インド、インドネシア、日本、ロシア、南アフリカ、スリランカ、スリナム、米国)。

<International Cultural Policy Framework for 2017-2020>

国際文化政策2017−2020では、文化遺産に関しては、Shared Cultural Heritage、武力紛争と遺産、モニタリングと評価の3項目について記述がみられる。

●国際文化政策の目標

以下3点が挙げられており、優先的対象国も示されている。

1.強い文化セクターを実現すること

国際交流と持続的な協力により、文化のより高い質が確保され、そうした質の高い文化は国外でも価値を認められる。
優先的対象国は、ベルギー(フランダース圏)、中国、フランス、ドイツ、インドネシア、トルコ、英国,米国の8カ国

2.アートがより広範な機会をもち、安全で公正、かつ将来性ある世界に貢献すること

  • 地元の文化遺産の持続的な保護も支援する活動内容に含まれる
  • 優先対象国は、エジプト、レバノン、マリ、モロッコ、パレスチナ、ロシア、トルコの7カ国。

3. 現代の外交のツールとして文化を有効に利用すること

*創造産業とSCH等の領域における活動も、これら3つの政策目標に適するよう実施される。


4.1 資金の流れ

SCH 政府→NGO(Dutch Culture)、政府→国家機関(在外公館、文化遺産庁、国立文書館)
CER 政府・民間→NGO

4.2 案件の決定

SCHの外務省負担金 在外公館に寄せられる地元のニーズに応じる。
SCHの教育・文化
・科学省予算
文化遺産庁、国立文書館の事業計画および国内外の諸機関との関係のもとで決定されるのではないかと考えられるが、詳細調査が必要。
CER 被災地のニーズに応じる。

4.3 人材の選定

  • SCHの在外公館事業、およびCERのプロジェクト実施主体は、地元の専門家・団体。

4.4 目標設定

SCH 共通の過去(mutual past)を継承すること、その現れである文遺産の持続的な保護を確保することが重視されている。
CER 「ファーストエイド」を行い、その後の、中長期的プロジェクトにつなぐということが特徴であり、プリンスクラウスファンド自らが重視している役割。

4.5 現状と課題

要ヒヤリング調査

4.6 ケーススタディ

ケーススタディ①
●Shared Cultural Heritage(外務省予算)

概要 インドネシアの鉄道の駅、線路、車両のほとんどはオランダ植民地時代にオランダによってつくられたものであり、インドネシアとオランダの共有の文化遺産(SharedCultural Heritage )となっている。インドネシア鉄道会社は、2009年に文化遺産担当部局を設置し、同部局ではインドネシア鉄道と、それとともにある植民地時代の建築や遺産の再活性化の取組みが行われている。この事業実施のため、2009年にインドネシア鉄道会社はオランダの文化遺産庁に支援を求め、文化遺産庁は2009年、2011年、2013年の3度にわたってミッションを派遣した。
目的 インドネシアとオランダのSCHの保存・活性化の方法についてインドネシア鉄道会社に助言すること
成果 ①歴史的な鉄道駅に関するワークショップの開催:鉄道博物館の再活性化の方向が見定められた。ワークショップでは、歴史的価値に加え、コミュニティが裨益する経済的価値を創出する事業としての文化遺産の役割が強調された。
②ジャワにおける最も重要な20の鉄道駅に関する書籍の刊行
③Surabaya Semutの駅の再活性化の方法に関するアセスメントの実施
④インドネシア鉄道会社の文化遺産部局のスタッフを対象とした博物館学コースの研修実施
カウンターパート インドネシア鉄道会社
パートナー組織 在インドネシアオランダ大使館、Atelier Spoorbouwmeester
資金 文化遺産庁

ケーススタディ②
●Shared Cultural Heritage(教育・文化・科学省予算)

「都市遺産の戦略–中心市街地発展のための資産としての遺産」(2011年)

概要 SCHの建築遺産の多くは、対象国の中心市街地に位置しているが、こうした国々には強い開発圧力があり、その優先課題となっている都市再生に関する人材育成を行うのがこのプロジェクトである。
カウンターパート エラスムス・ロッテルダム大学住宅・都市開発学研究所(Institute for Housing and Urban Development Studies,Erasmus University Rotterdam)
パートナー組織 SCH対象諸国の政府機関とNGO、CEPT大学(アーメダバード)、インドネシアヘリテイジトラスト、Heirtage Strategies International, Washinngton,デルフト工科大学
資金 文化遺産庁、教育・文化・科学省

ケーススタディ③
●プリンスクラウスファンドの文化遺産緊急援助プログラムCERによる2015年のネパールゴルカ地震への対応

内容と対象の異なる複数のプロジェクトを支援するとともに、国際機関によるトレーニングプログラムの支援も行っていた。

〇個別プロジェクト

  • Sulima Agam Shrineの修復・構造補強(支援額22,000ユーロ):地震当時、Sulima Agam寺院は修復中であったが、地震いより構造をさらに弱体化させる新しい損傷が発生した。この資金援助は、寺院の解体・再建のニーズに応じたもの。
  • パタン地区ダルバールスクエアの修復(支援額106,800ユーロ):ダルバールスクエアの建物の緊急の補強・修復
  • 博物館所蔵品の救出・保管(支援額10,000ユーロ):チャング・ナラヤンのLiving Tradition Museumの所蔵品を救出し、美術館が再建されるまで一時的に保管するための支援。
  • 損傷した文化遺産のドキュメンテーション(支援額3,000ユーロ):地震により被災した文化遺産の記録作成をネパール国内各地で行う写真家への支援
  • 記録、救出、補強、一時保管に関するトレーニング(支援額15,000ユーロ):被災した寺院、博物館において実施する、文化遺産の緊急援助に関する技術の広範なトレーニングの支援
  • MPPアーカイブのコレクションの救出(支援額16,050ユーロ):地震によりMPPアーカイブの建物が損傷を受け、一時保管施設の準備が進められているが、雨期の湿気から資料を保護するために、資料のカタログ作りおよび安全な保管を行うもの。

〇国際団体等による現地関係者へのトレーニング

2015年6月に、ユネスコカトマンズ事務所、ネパール考古学局の要請に応じ、ICCROMがICOMOS、ICOM、UNESCO、スミソニアン協会と連携して行ったトレーニングコースの支援を行っていた。


5. 特筆事項

  • オランダは、16世紀から18世紀にかけ、東インド会社、西インド会社を設立するなど、アジア等に植民地を拡大していった歴史があり、旧植民地あるいは日本を含め当時交易のあった国々との間に共通の過去があるとの考え方を打ち出している。そうした歴史を踏まえ、2000年以来のShared Cultural Heritage/Mutual Cultural Heritageでは、旧植民地国は援助先として高い優先順序を認められている。
  • ユネスコハーグ条約に関しては、武力紛争時の文化遺産保護に関する規則を定める国際条約(ハーグ陸戦条約)を採択した「万国平和会議」が開かれたのがハーグであったこと、また、第二次世界大戦時にはドイツによりロッテルダム等が壊滅的被害を受けた歴史を持つこと等から,1世紀以上にわたり、一貫して、この分野の国際協力に積極的に関与し、国際社会をリードしてきている。

© Copyright 2016 Japan Consortium for International Cooperation in Cultural Heritage All rights Reserved.